部屋が狭くなってきた。物が増えたからだ。
年末も近づいてきたことだし、そろそろ断捨離をしないといけないな〜と思い始める今日この頃。
何がこんなに部屋を圧迫しているかと言うと、やはり本である。もういい加減にして欲しいくらい増える。


最近また読むペースが上がってきたからか、「もうすぐ読み終わるだろう」と思ったらすぐに書店で数冊買ってきてしまう為、認知症のおじいちゃんみたいな頻度で本が増えていく。このままおれが認知症になったらその速度はもっと上がっていくことだろう。
世にも珍しい「若い頃はまだまだいけたんじゃが……」の逆を行く、日々加速するターボおじいちゃんになるのが楽しみでならない
だから今年は特別“読書の秋”って感じでもなかった。それらしい事を何もしていないから、秋が終わる前になにか珍しいことでもしようかしらん。
なんて考えている時に友人の對馬くんから
「夜、近くで飲み会があるからそのままお前ん家泊まるわ」
と大学生みたいなノリのメッセージが届いた。
その日は休日で、特に読書以外に予定はなかった為了解し、夜ごろ我が家に集合する。
そして話の続きである「秋のような活動」を暇な2人でやってみようということで色々考えた結果
もうこれは“芸術の秋”しかないだろうという事になった。
せっかくなら外に出て“スポーツの秋”なんてのもいいかと思われたが、友人が泊まった次の日は寝具等をコインランドリーでまとめて洗濯している関係上あまり遠出も出来ない。洗濯中に汗をかくのも勿体ないし、外の世界も急に寒くなってきたので大却下の判断を下した。
そういえば今月は雨の日も多かったし、外出はほとんどしなかったなぁ。健康診断にだけは行ったけど。身長が伸びて184cmになってて神だった。イェイ✌️
おれは部屋からホコリの被った油絵キットを取りだし、對馬くんに見せる。おまえは初めてさわるだろう
「ほぇ〜〜すっげ〜」と口を開き舌を出す彼を横目に準備を進める。
パレット、ペインティングオイル、イーゼル……
對馬くんには、2,3年前にうちに来た別の友人の描きかけの「ウミガメの絵」を渡し、上から自由に塗ってもらうことにした。
おれは何を描こうか悩んだが、結局自画像を描いてみることに。
鏡を見ながら自分の顔をキャンバスに描いてみる。

對馬くんが撮ってくれたのだが、斜めに持っていたせいで絵の角度がだいぶ変わってしまっている。
それと、油絵をするときではありえない格好をしているのは、コインランドリーで部屋着などを全て洗濯しているからであり、決して写真のうつりを優先した格好ではない。

下描きはこんな感じになった。

え、アンドルフ?

まぁいいさ。どうせ絵の具で塗る時には下描きなんかどうでも良くなる。
軽く髪の色を塗ってから一度對馬くんにバトンタッチ。
彼にはまず筆で描くことを体験してもらおうと、眉毛を描きこんでもらう。

キスする時の角度?
すごいアツい姿勢でペイントしてもらっている。
出来上がった、立派に塗られた凛々しい眉毛を見て
急に破壊衝動を駆られる。こいつは丁寧に塗りすぎだぜ
「俺の顔はもっとぐちゃぐちゃでいい」と筆をとりあげ線画の上から筆でガシガシと描き込んでみる。

56歳くらいの人?
まぁ芸術なんてのはこんなものだろう。
ここからが爆発なのだ。
次は肌の色を塗れば?いいんかな。
たぶん濃い色→明るい色で立体感を出していけばいいと思うんだ
なので、濃い色で……


焼死体?
これは、どうにかなるのか?
乾くのを待つのもめんどくさいので、もう明るい絵の具で塗っちまおう

ゾンビの公務員?
でもよく見てほしい。
やはり色の重なりから立体感が出ているではないか。
あとは影となる色で目の位置を特定して……

うん、まぁ最初はこんなもんじゃね。
ゾンビではあるけど。
ゾンビみたいな生活してるから矛盾はない。心なしか表情もやわらかく、うっとりしてきた気がする。
こんなもので一旦終了。続きはまた今度で
そして隣の對馬くんに渡したキャンバスだが、
ウミガメの塗り途中のところを本当に自由に描いてみてくれたらしく
メインカラーが青から赤に変わるくらいに芸術を爆発させてくれた。


途中まで丁寧に塗ってくれていた彼だが、隣でおれが「ここからが爆発なのだよ、芸術は」と下描きを無視して塗りまくった所を「ふむ」としっかり参考にしたらしく
「完成だぜ」と見せてくれた彼のウミガメは炎に包まれていた。

元のウミガメを描いていた別の友人に、その変わり果てた完成形を送ったところ「途中?」と返事が来たため
彼は泣きながらその燃える亀を未完成状態という事にしていた。
◇
對馬くんが帰ったあと、部屋を片付けるがやはり狭い。
ただでさえものが溢れているというのに出したイーゼルが通路を塞いでいて居場所がない。
油絵は乾くまでとてつもない時間を要する。年末の大掃除を直前に控えている身でありながらなぜ芸術などに手を出してしまったのか。安易に爆発させるのではなかったと多少の後悔の念を持ちながら、早く乾いて次の重ね塗りを始めたいという気持ちもある。
そういえば、去年の9月にも自画像を描いたはずだ。
あの時はたしか画用紙に描いた。ちょっと見比べてみよう。
画集が積まれた棚の底の方に押しつぶされているノートを引っ張り出して隣に並べてみる。

1年で腐敗が進んだ感じするな。
この自画像になる前の状態を見てみようと、スマホの写真を見てみる。
当時の下描きの画像もフォルダから出てきた。

56歳くらいの人?
……今回の自画像はゆっくり時間をかけて56歳でもゾンビでもなく生命力溢れたものにしたいと思った。
この先手を加えて自分の顔に近づけるために技術を磨こう。
とりあえず今日はここまでだ。読書を再開しようと思う。しかし居場所がないなぁ
そういえば、読書を日頃からする人はどんな姿勢で読んでるのか気になる。
最近ずっと部屋が狭いから居場所というか、落ち着いた読書スタイルを確立できずに迷走気味なのだ。
この前買ったロッキングチェアも良いんだけど、揺れるから長時間は落ち着かなかったり、眠くなったりしてしまう。
だから本当に意味わかんない話だが最近は部屋で立ち読みすることも増えた。店か。
で、疲れると座りたくなるけどロッキングチェアだとゆらゆらして眠くなるから、別の椅子に腰掛ける。
ソファベッドは背もたれが足りない。アームチェアは革が固くて長時間向きでは無い。
ハイチェアは腰に負担がかかる……と各地の椅子への離陸着陸を繰り返す。もちろん本を読みながら。
最終的に最も座り心地のいい椅子として落ち着いたのは便器だった。家電じゃねぇかよ
住人がいないと思って泥棒が侵入してきてトイレの個室でミステリ小説読んでるおれを発見したら多分向こうの方が怖がるぜ?
俺はその隙をついてトイレットペーパーをちぎり、栞として本に挟み、そのままタックルをかましてやるのさ。
でもさすがに泥棒の方が一手速い。手にした武器で俺に斬りかかってくる。
しかしおれは離着陸を繰り返し這い回っていたから体力が底をついている。前へ進めずその場に倒れ込む形になってしまう。が、それが怪我の功名となり泥棒の攻撃をかわし、おれは泥棒の足に激突する。泥棒はそのまま倒れ、背後のイーゼルに頭から突き刺さる。イーゼルはそのまま壊れ、衝撃で油絵具のセットが散乱する。ペインティングオイルが床にぶちまけられる。大量にだ。
俺の家に多く積まれている書籍にまでオイルが飛び散り、俺は慌てて拭きに立ち上がる。本だけは大切にしなくては。俺は立ち上がった時に自分の身長が伸びていたことを思い出す。なんてったって184cmだ。頭を天井の電球に思い切り打ち付けてしまった。飛ぶ破片と漏れる電流。頭上から降り注ぐ火花が、床に染みたオイルを伝い、本の山へと引火する。至る所でスパークを起こし、部屋はあっという間に炎に包まれ、視界が赤に染まる。
足元には泥棒が倒れており、おれは目に突き刺さった電球の破片で何も身動きが取れない状態。自画像を描く際に用意した鏡をなんとか引き寄せ、恐る恐る目を開けてみる。気がつけば俺の体は炎に包まれており、皮膚はただれていた。
「なんだ、やはりよく描けているじゃないか……」
おれは描きかけのゾンビの自画像を横目に倒れ、うっとりとした顔で燃え尽きるのさ。
