2024年になった。
折角なので新年の抱負を考えてみようと、去年を振り返ってみる。
振り返るまでもない。引っ越しにより去年から始めた新生活において、貯金が進まない現状を克服しない事には2024年を明るく過ごすことはできぬ。
2024年は辰年、龍の如き荒れ狂う波を掻き分け邁進すべし。
という事で2024年の目標は「節約」である。
下町といえど目の前に巨大な観光スポット・東京スカイツリーがそびえ立つ墨田区でどう節約していこうか。
答えは簡単である。 グッズを買わない、これに限る。これ以外に思い当たる原因もない。
新居を見渡して、去年買ったものを眺めてみる。 墓場鬼太郎・地獄少女全巻、小さいフィギュアの数々、未開封のゲーム・漫画・小説……目眩がする。まだDVDや本などは良い、ただフィギュアは駄目だ。フィギュアは「買う」という行為自体が快感になるだけのアイテムなのでいざ手元に来て部屋に飾ってしまえばそれでおしまいなのだ。
この前まで狂ったようにマイリトルポニーのランダムボックスフィギュアを買い漁っていた自分を殴りたい。タイムマシンで戻ってやろうか。おれは近い未来から来たおまえだ。見よ、こんなに買っておいておまえの大好きなフラッターシャイのフィギュアは一体も手に入れられていないではないか、バチン。
このまま物が増え続ければ折角の新居がヴィレッジヴァンガード化してしまう。
そんな危機に直面したおれは脳内のドラえもんに助けを乞う。
タイムマシンより何かいい道具出して~~(><;)
「家計簿~」
そして年を越し今に至る。 元日、今日から毎日の出費額を全て計算し、目に焼き付けることにする。
「家計簿をつける」 と心に刻み、 新年最初の一日を過ごしてみた結果、 1月1日の出費額は1500円であった。この日は仕事があり、ずっと外出していたのでこれらは全て朝昼晩の食費と、その日の夜食・次の日の朝食である。1食300円で抑えられている事に喜びを感じ 「なるほどこれは良い習慣ではないか」と思い次の日へ。
2日目は一日中部屋にいた。 よって外食費はかからずなんと0円。 2日間の平均出費額が750円ということになる。
コンビニ飯で済ませる場合も心のどこかで 「この値段を家計簿に書きたくない」というイメージが付き纏い良い抑止力になっている。とりあえず自分の平均出費額を知りたいと思い始めた1月だが、いざ始まると痩せ我慢をしているのが透けて見えて何とも姑息である。
このまま順調に無駄遣いせず無欲でいこう。と、決意を固めかけたその時、ドロドロとした、なんとも言い表せぬ邪悪な毒気のようなものをポケットから感じた。
恐る恐る取り出してみるとそれは見慣れたスマートフォンであった。 画面を見てみると弟からLINE通知が来ている。
我が弟はというとこれまたかなりの吝嗇家であり、無駄な出費は一切しない紐の固い財布を持つ男である。
先日、「今月のカードの請求額が17000円程度であった」と自慢げに報告してきた。凄すぎりゅ。
彼が金を落とすものと言えば最低限の食費やサブスクの請求、そして映画やライブ鑑賞等の芸術体験のみである。
ちょうど良い機会だと思い倹約のいろはを学ばせて頂こうとLINEを開く。弟からのメッセージ。
「今日、 映画を観に行きませんか」
「なんのです」
「『ポールプリンセス』です」
聞いたことがある。突如WEB上にて公開された「ポールダンス×アイドル」の斬新な設定が注目された青春アニメである。モーションキャプチャで実際のポールダンスの動きをそのままアニメに落とし込む激ヤバド迫力CGライブシーンがウリだと聞く。そしてその演出担当は確か……
「乙部善弘氏である」
………
行くかぁ~……
映画代は1700円だった。いつもなら何も考えないが、今年のおれは違う。必死に我慢した1月1日の3食分を軽々超える1時間の上映料金に「今までの努力は何だったのだ」とブルーな気持ちになる。
しかしあの弟から誘って来た映画ということは価値のあるものに違いない。グッズを買わなければ大した出費にならないだろう、と新宿バルト9へ向かう。
しかし、その愛らしいアイドル達の姿を見てしまっては何かが崩れるような気がした。ここまでようやく高めてきた男としての背骨が跡形もなく溶解してしまう気がする。それはここから戦いに挑まねばならぬ自分の覚悟をも溶かしてしまう気がした。
だがチケットはもう手元に。どっちにしろもう遅いのだ。沼に溺れなければそれでよい。これ以上の出費はしない。
映画が始まる。娯楽に浪費する機会はこれで最後d─────────...
己の覚悟が崩れ落ちる音の連なりは、高く澄み切ったメロディへと生まれ変わる。と、同時に映像の中の光景も一気に開けていた。
それはまるで、暗い森を抜けたそこに人の手に穢されていない澄み切った泉が現れたかのようであった。大気と気温と植物の呼吸が渾然一体、絡み合ったような美があった─────────。
きらきらと景色は巡る。
己の心的葛藤を代弁するように、情景は時に跳ね、時に爆ぜる。光を弾き、光を纏う、極彩色の世界……
……….
……
はッ!
気が付いた時には帰路についていた。弟と映画の良かったシーンなどを語り合っているうちに大迫力のライブシーンを脳内で反芻し2人して再上映状態に陥っていたらしい。あぶないあぶない。
しかしポップコーンやドリンク代を渋って手ぶらで映画を見るというのも、映像に集中出来て良いのかもしれない。節約にもなるし…と新たな気づきを得たところでふと手元を見ると──────
な、なにィ…!?
いつのまに…ッ!?
ポ ー ル ダ ン ス ア ク リ ル マ ド ラ ー を 買 っ て い る …だと!?
これはいったいどういうことか。グッズは買わないとあれだけ心に決めていたのに。
弟よ!なぜ会計時に止めてくれなかった!そう弟の方を睨みつけると──────
西 条 リ リ ア ち ゃ ん 応 援 う ち わ を 買 っ て い る …だと!?
あの倹約家の弟もまさか真冬にうちわを買うことになるとは思っていなかったらしく「すまない兄者」と頬を濡らしていた。その横顔はどこか恍惚としていたようにも見えた。
その様子を見た途端、頭の中で火柱を立てていた憤りは急に勢いを失い、反論する気持ちもボルテージ・ダウンしていた。レシートを確認し自分のクレカでうちわも一緒に買われていたことに気づくのは帰宅後の話である。
しかし見事にやられてしまった。まさか一瞬の気のゆるみで上映後にグッズをチケット代以上の金額分買ってしまうとは。
人間の気持ちなんて勝手なものだ。周囲の状況で正反対の感情に容易く変わってしまう。だから、そんなものは最初から信用しないのだ。(?)
そしてマドラーか……。買ってしまった以上うまく使いこなしたい。無駄にしなければフィギュアのような「買って後悔」は起きないだろう。
実際結構気に入っているアイテムである。(^^)
ここで家計簿に金額をメモしながら考える。なにも映画の誘いを断ってまで節約をする必要はない。間違ったことはしていない。
新年に掲げた目標を意識しすぎて捻じ曲がった信念を貫くところであった()
新しく始めることは「家計簿に出費額を記入する習慣をつける」でいいじゃないか。事実、家計簿を持っているだけでもある程度無駄遣いを抑止する助けになっている。
友人や同僚から飲みに誘われて「ゃ、節約したくて笑」とか断り続けたらいよいよお金より大切な何かを失うことになる。
個人的な日頃の無駄いを減らすためにメモだけは続けよう。
これにて一件落着。新年から無理に貧乏生活を強いられる事態は免れたようだ。
映画も良かったし、心の蟠りもとけた。このままいい夢を見ながら眠ろう。
次の日の目覚めと言ったら最高であった。「夢とは記憶の整理」などとよく聞くが実際にそうらしい。見事に昨日の映像の数々を夢の記憶として鮮明に覚えている。ご機嫌な朝からドリンクを用意しひと息つく。至高の時間である。
窓からは鳥のさえずりが聞こえ、柔らかな朝の日差しが透明な膜となって部屋に注ぎ込む。おれという存在が、じわじわと融解し、溶けて幸福の感情と一体となる。その時おれの霊体はその幸せに満ちたエネルギーで大宇宙の全てに次の進化を促す程のエナジーを降り注ぎ─────
進化…
……そう“進化”だ。
進化は常に追い詰められた状況で起こる。絶滅の危機に瀕した状態などでだ。
そして生み出された新しい形質が最初から種の保存に有利とは限らない。
例えば、人類はたった1個の遺伝子の突然変異によって体毛を失い、裸の猿になったと考えられているが、氷河期に体毛を失うことは生存に有利などころか、生命を脅かす極めて重大なハンディーを背負うことを意味したはずである。
しかし、そのハンディーを抱えたものがやがて人類に火という文明の灯火をもたらし、古い人類にとって代わった。
今回の話も同じことと言えるのではないか。
掲げた最初の目標を守ってさえいれば良いなどという考えだから軸のブレや変な脳内コンフリクトを起こすのだ。人類の進化に倣って結論付けるならば、己の進化に必要なのは苦境、困窮、貧苦、そして「恐怖」
「恐怖」とはどこからくるのか、そう「無知」からだ。だから人は学ぶ。
恐怖から逃れようと理解不能なことを研究するのだ。空腹の恐怖から調理研究が重ねられ、外気温の恐怖から衣服が研究され、外敵への恐怖から建造物や武器が研究された。人間の叡智はすべて恐怖から逃れるために積み上げられてきたのだ。
今まで目を背けてきた浪費を輪郭を持った数字としてリアルに書き出すことにより恐怖を知り、追い詰められたおれは人類の進化同様、次の段階へと進むのだ。
つまり、この家計簿こそが進化の秘宝である。
「…その通り」
⁉
ユカリさま…?
「おまえは今まで通りの生活を続けるのです。そしてついに己の中での限界が来たとき、自身の殻を突き破って最終形態へと進化するのです」
つまり、もう何も我慢しなくていいと…
「今まで通り、趣味に溺れ昨年と変わらず怠惰な日々を送るのです…」
しかし次の瞬間ユカリさまだった筈のものが姿を変えてゆき……
…………
……
パチッ
気づけば深夜の0時であった。どうやら記事を書いている途中で魔の空想をしていたらしい。
朝の日差しも、鳥のさえずりも、ユカリさまもいなかった。
新年からどうも可笑しな妄想、いや暴想が続く。少し深呼吸して落ち着こう。
これではまるで、かの妄想少女アンジェラ・アナコンダではないか。
しかし彼女の場合、妄想から覚めると大抵の問題は解決しているのだ。
さっさと寝て現実の世界の問題を解決しよう……
まずは無駄遣いという扱いにしない為にも手を付けていない小説の消化からである。
千里の道も一歩から。目の前の事から着実に。
アンジェラ・アナコンダ2世、2025年のヘビ年に向けてひと足先にアナコンダの如く地を這い邪を呑んで行く所存で御座います。
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