11月。
インフルAに罹った。Aという事はインフル界ではそこそこ成績優秀な菌なのだろう。A+だったら死んでいたかもしれない。
そんでまぁ~高熱。引きこもってドラクエをしていただけなのに、何処で感染したのやら。
ピーク時に熱を測ると39.9℃だった。どうりで動けないわけだわ。

よくわかんないけどあと0.1℃上がったら時限式の爆弾みたいに全身が弾け飛んでいたような気がする。それほどまでの負の熱エネルギーが体内で溜め込まれ、膨張し、渦巻き、内側から重くのしかかっていた。身体も点滅とかしてたと思う。
無意識のうちに俺は体温を下げようとベッドの上でクネクネし、外気と触れている窓に手を当てたり、毛布を蹴飛ばしたり、なんかもうキモい動きを繰り返していた。
そうやってもがくうちに体力が尽き、死んだように寝る。そんな死にかけの虫みたいな数日間だった。
そして、寝ている間に見る夢が、まぁ酷い。
支離滅裂、奇想天外、超突飛、奇妙奇天烈のまぁ意味不明 (短歌)
“インフルの時に見る夢”とはよく言ったものだが、マジで変な番組しか流れないカスのTVショーであった。
目を覚ましてから、忘れないようにベッドの上でモジモジしながら幾つかメモを取ったので少し紹介する。
最初の夢は、剣道の試合の夢だった。
団体戦の大将戦で俺と戦っているのは小学生〜中学生の頃の知り合いの剣士だった。相手はまっすぐ竹刀を構えたまま動かず、俺の打突は何故か届かない。触れようとした相手が逃げる、近づこうとすると遠ざかる、悪夢あるあるだ。汗をかいていたから剣道の試合の夢なんか見たのか?
次の夢はまた別の場面に切り替わる。ドラクエ2の街を永遠に探索する夢だ。「このフロアにお宝があと1つ残っている!」というメッセージが表示され続けており、木の根、タルの中、井戸の底まで探すがあと1つが見つからない。そんな夢。
最近までドラクエで遊んでいた為、夢に出てくるのはわかる。しかしインフル中だからって謎の補正をかけて悪夢にしなくったっていいじゃないか。まだ「魔王に襲われる」とかならストーリーもあってワクワクしたろうに、しっかり嫌な感じの悪夢に仕立て上げられた。
次の夢は高熱がピークの時に見たものだ。
実家に帰り、リビングに入ると部屋の奥で父親が巨大な平らな岩石の前にあぐらで座り、こちらに背を向けた状態で何か作業をしている。近づくと手元にキラリと光る刃物が見えた。ゾッとした瞬間、父が背中を向けたまま「おかえり、いま懐石料理つくっから」と言ってきた。
懐石料理……? どうやら父はその巨大な岩石をまな板代わりに料理をしているらしい。父の背中越しに、恐る恐る手元を見てみると──
ちぃ〜ちゃいタツノオトシゴの稚魚を石包丁で、一生懸命捌いていた。
そこで場面が切り替わる。おれは料亭に来ていた。いや、旅館の大広間だったか。豪華な食事が次々と運ばれてくる。覚えているのはデミハンバーグ、エビフライ、生姜焼きなど。ガキすぎる。
周りは旅館の大広間で俺自身も和の装いでその会に参加しているのだが、運び込まれてくるのはほとんど洋食系だ。なんと言うか、変に不気味というかアンキャニーというか、そのミスマッチさが“夢”って感じである。もちろんタツノオトシゴの懐石料理は無い。もう今は全く別の夢なのだ。
しかしここでも問題が。白米が来ない。わんぱく食事の豪勢な夢かと思いきや、やはり悪夢の影がのぞく。嫌な予感は的中。たらふくおかずを平らげた後に山盛りの白米が運び込まれてきた。インフルが見せる悪夢のパターンも掴めてきている。読める、読めるぞ!
目を覚ますと朝からなにも食べていない事に気づく。しかし食欲は毛ほどもない。夢で暴食したからなのか、高熱に侵されているからなのかは不明。両方な気もする。とりあえず冷蔵庫まで這いつくばり、ゼリー飲料でどうにか命を繋ぐ。熱は38.6℃。もう少し下げたい。
ベッドに戻り、先ほどの夢の日記をスマホに書き起こし、また眠りにつく。
おれの人生でこの日が最も規則正しく行動していた。
────なかなか寝付けない。そりゃそうだ。1日のほとんどをベッドで過ごしているのだ。いくら疲れているとはいえ、そんな連続で睡眠をとることはできるはずもなかった。
しかし、暑苦しい。なんか体が変だ。いよいよ体内に溜め込まれた悪夢のエネルギーがおれの体を突き破って弾け飛ぶのではないか。頭がグワングワンしてきた。爆発前の警告音のようにも思える。もうだめだ、爆発します────と泣きそうになった時、突如部屋の窓ガラスが大きな音を立てて粉々に砕け散った。割れたガラス窓からは猛吹雪が舞い込み、おれの上がった体温をみるみる奪ってゆく。凍えそうなほどの寒さに震えているところで、目が覚めた。
これも夢だった。ついに夢と現実の境目がグラデーションになってきたようだ。そんでめっちゃ寒い。見ると服がはだけ半ケツ状態だった。「このままじゃ風邪をひくぞ」という警告は雑な悪夢という形であらわれた。カスのスピリチュアル・チャネリングである。ケツ半分出してるのも意味わからん。うなされすぎだろ。
その吹雪(?)のおかげか、それとも医者から処方された「ゾフルーザ」とかいう絶対にヤバい効果の薬のおかげか、それから体温はぐんぐん低下していき、36℃台にまで落ち着いた。食欲も戻り、生きる力を取り戻してゆく。あんなに重かった身体もだんだんと動かすことができるようになり感動した。動けることは、素晴らしい。おれは神に感謝しながらケツをしまう。
結局5日間は寝て過ごし、今では無事、平熱元気マンだ。
夢というものは、覚めた瞬間が一番静かだ。熱が引くと同時にあの世界は少しずつ音を失い、色が薄れていった。
熱が下がって、世界の色が元に戻った時ふと、あの時見ていた景色はどこへ行ったのだろうと思った。
あの歪んだ夢を見続ける日々が少し恋しくなった自分もいる。あのいびつな夢の輪郭をなぞるように今日も布団に入る。
あれからというもの、夢の内容を記録する癖がついた。どうせ平熱時の夢など面白くはないと思うのだが、インフルの時と比較してみるのも面白いかもしれない。LINEをメモ帳代わりにして朝書いたものを読んでみる。

夢というものはいつでも意味不明なものらしい。
