年末に向けて忙しくなるこの時期、俺だけが狂っていっている気がしてならない。
まず「暇だからインターネットで日記を書いている」という時点でおかしな状況ではあるが、最近のスケジュールを見返してたら「突発的な奇行」が多い事に気がついた。
まず今月、検定試験を2つも受けた。
なぜだかわからないが急に勉強欲?がその時の俺に湧き上がってきたらしく、気がついた時には検定料をクレカ払いしており最短日での受験に備える状態になっていた。
受けた検定のひとつは漢検2級。合格ラインは合計点の8割程。調べてみると合格率がなんと30%を切っており、生半可な気持ちで挑むわけにはいかない難関試験であった。問題の形式も記号問題や四字熟語、部首•熟語の構成など、それぞれに合わせた対策が必須の検定である。ノー勉で受けた。
とりあえずノリで申し込んだ事を後悔している頃にはもう試験前日だったし、スイカゲームとポケモンにごっそり時間を取られてしまったので仕方がない。
結果はまだ届かないので自己採点をしてみたが意外にも7割ほどは取れていた。採点者の視力が著しく悪くてなんかの間違いで合格してる事を祈る。
そしてもうひとつは妖怪検定。名前からしてもう意味不明ではあるがそのまま妖怪の検定である。おばけにゃ学校も試験もなんにもないんじゃなかったのか。
年に一度開催されるというのをTwitterでたまたま見つけ、その場で応募してしまったらしい。
こちらは初級•中級•上級の3つから構成されており、それぞれの級に合わせた出題範囲と難易度が調整されたテストが実施される。前回のデータだと初級の合格率は61.5%、中級は25.9%そして上級はわずか15%とのことである。
妖怪という未知数なほど膨大な出題範囲であるにも関わらず過去問テキストが存在しない本試験は、水木しげるの妖怪大全(約900p)からランダム出題の超難関クエストだ。とりあえず中級は記念受験という形で初級•中級の併願受験を申し込み、一緒にテキストとなる分厚い妖怪大全も購入。漢検のようにはいかないぞ、と気合を入れる。そして当日、ノー勉で受けた。
当日は試験会場となる水木しげる縁の地•調布市に向かう電車に揺られながら妖怪大全を眺めていたがこれがなかなか頭に入らない。つーかバカムズい。無理だわこれ。
テキストには妖怪が五十音順に掲載されており、「あ」から始まる「青行灯(あおあんどん)」から読み進めたが調布市に着いた時点で「オッパショ石」だった。ぜ〜んぜんア行。
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しかも俺の試験申し込み時期がアホほど早かったらしく、先着順であるにもかかわらず受験番号は1桁だった。会場の机の1列目に座る方々はみな面構えの違うガチ勢感が漂っており、とてもノー勉が並んで座っていい雰囲気ではなかったのを覚えている。
こちらも結果はまだ出ていないので、初級だけでも合格していることを祈る。
そんな妖怪検定の前日、何をしていたかというと
勉強するでもなく平気で山梨へ旅行に行っていた。
これも半突発的に決まり、当日の2日前に急に「ほうとう食べに行こう」と、よく日記に登場する指原(仮)とその友達に誘われたのだ。
山梨へ向かう車内では雑談が盛り上がり、なぜか「キラキラ女子2人が監修して俺のTinderアカウントを作成してくれる」という神展開になった。なんで?
俺のフォルダから使えそうな写真をピックアップしてもらい、プロフィール欄もあまり攻めすぎず、簡素だがそこそこ好感の持てそうな具合に作ってくれた。山梨旅行中に?
俺はというと信頼のおける女子2人の手によって、マッチングアプリ上に生み出される新たな我がペルソナに静かな高揚感を覚えながら後部座席で明日の妖怪検定のことを考えていた。子泣き爺、砂かけばばあ…
プロフィールの記入が終わるとお待ちかねのスワイプタイムだ。しかし実際よく分からないから全部右にスワイプしまくる事にした。誰かはマッチしてくれるだろう。なんてったって作ったのは閲覧する側の2人なのだから!
しかしTinderでマッチしたとして、どうすればいいのだろう。当方、クソインキャのオタクなので自己紹介から既にハードルが高い。そもそも経歴も変なので「あ、元々探偵やってました、趣味は占いです」とか言ってしまった暁には速攻切られる可能性がある。
大体「探偵」とか「占い師」とか、俺だけ人狼ゲーム中だと思われるだろ。そうなってくるとマッチ相手は「私は市民でした〜」とか合わせてもらわないとコチラが浮いてしまう。みんな役職をプロフィールに明記しておいてくれ。進めやすいから。あと騎士なら優先的に占い師を守れ。人狼に狙われやすいから。
そんな不安も杞憂に終わり、誰ともマッチしないままスワイプ上限に達してしまった。まぁ初回はこんなものだろう。少し時間が経てばまたスワイプ出来るようになるらしいのでそれまで山梨の河口湖を満喫することに。
しかし、この日Tinderから通知が来ることは無かった。
それどころかスワイプし続けた途中で「もういねーよ」とアプリ側から文句も言われてしまう始末。ごめんなさい。
マッチングアプリは、「自分の現在地」と「相手との距離」が表示される機能がある。これを利用して相手の検索をする際「自分の現在地から〇km以内」などで絞ることもできる。マッチした時にお互いがより出会いやすくなるように、ということだろう。俺はこの日は大体10kmくらいで検索かけてたと思う。よって山梨の人類死滅説が最も有力だ。
「ま、まぁ減るもんじゃないし、毎朝起きたらスワイプし続けてみて!笑」
とギャルたちにキラキラ笑顔で言われたのでそれを信じてデイリークエストとして消化し続ける。
そしてこの日記を書いている今さっき、Tinderから通知が飛んできた!(2023/10/30 20:36:57)
「新しいマッチが見つかりました!😍😍😍」
協力して作った俺のアカウントで、何としてでも結果を残したい。その思いで(勉強もせず)毎日スマホの画面を擦ってきた。
俺の右親指は既にスワイプのし過ぎで特別な筋肉、俗に言う“Tinder筋”が発達し異形と成り果てていた。
マッチ成立の通知を見た途端おれは目の前がぶわっと明るくなる。日々の鍛錬が実った瞬間であった。
溢れる感情を抑えながら通知バーをタップしアプリを開く。
そして表示された女性のプロフィール。
24歳165cm。
現在地18,069km。
基本情報:かに座
名前はNanda。
ほんとに何だよ。
いや別に、このNandaちゃんをバカにしているとかそういう訳ではなくて。
このTinderとかいう野郎、日本中探しても俺に興味を持つ女性がいないと判断して18000kmも離れた星の裏側の人を持ってきやがった。
設定の10km内はどうしたんだよ
とりあえず「どこ住みですか」とコンタクトを取ってみるも当然返信は来ない。時差もあるだろうし。
……
あれから丸1日が経った。仕事明けの体につめたい秋風が吹く。
今日は10月最後の日。世はまさにハロウィンで賑わいを見せている。
18,000km離れたあの子へ、おれの言葉が届くことを祈りながら歩き続ける。
今年ももう終わる。
行き交う人々の群れをかわし伏し目がちに歩き続ける。
気づけばあれからずっとNandaのことを考えている自分がいる。
日課だったスワイプは、もうしていない。
おれの右親指も元のサイズにすっかり戻ってしまっていた。
年末に向けて忙しくなるこの時期、俺だけが狂っていっている気がしてならない。
おれはこの狂った生活のまま君からの返事を待つことにする。
偶然、パラグアイのアスンシオンには金持ちの友達がいる。行ってみるのも悪くない。
この感情も突発的な奇行のひとつなのだろうか。
自分では分からないが、今はもうただ思いを馳せることしか出来ない。
この狂っちまった哀しみに…