さて10月
長い長い夏が過ぎ、やっと涼しくなってきた。なんなら最近はちょい寒くて電気ストーブ出した。季節の巡りを感じますね。
今月は6日に受けた妖怪検定以外に目立った予定が何もなく、出勤以外の外出がゴミ捨てと深夜徘徊のみの平和な月である。
栃木に住んでいる散歩好きのおばあちゃんと同じ生活リズムになってしまっていると焦りを感じたが、おばあちゃんは友達とコーラスに行ったりしているので生活の充実度でいえばおばあちゃんのボロ勝ちである😵
最近では暇な時間が多すぎて、暮らしの中で考え事をする割合が多くなった。
(自分の家で密室殺人事件が起きたらどこが脱出経路になるかね)(凶器は意外なものがいいな)(パスタが余ってたからそれで目を突くとか?)(今日のランチはパスタにしよ)(カチカチの冷凍食品で殴れば溶けて証拠になり辛い!)
今日も脳内で様々な思考実験を繰り返しながら、ひとりで生きてゆく為の最低限度の家事をして、廃人にならない程度の生活習慣を心がける。
◇
食事を終え暇になったおれはベッドで横になり、自室の窓から青くかがやく空を眺めひとり考えるのだ。
オシャレな喫茶店に行きた〜い
◇
「いい天気だしなんか雰囲気ある喫茶店とか、いいな〜」
しかしこの男、考えとは裏腹にそこまでの気力はなく「今日はゴミ捨てしたから外出ノルマは達成😃」と細胞がおやすみモードになってしまっている為ベッドから起きあがろうとすらしない。無表情で天井をただ見つめ脳だけが活発に動き続けるその様は大地に根を張る植物そのものである。
試しに脳内でカフェに行くシミュレーションをしてみる
ウーン
「……」
「俺は本当に喫茶店に行きたいのか?」
そもそも、オシャレな喫茶店に行ったところで何をするんだ?お洒落空間で珈琲を啜りながら優雅に読書でもすれば良いのか?
けれども読書をしたとして、あんまり長居するのも営業妨害になっちまうんじゃないかと気が気ではないし、かといってエスプレッソのショットをカクンと呷ってクイックターンのように退店するのも喫茶店の楽しみ方とは思えない。
あと、周りに人がいるのが嫌すぎる。節約もしたいし。
ん〜……
外、出なくていいか!w
コーヒー系のドリンクや紅茶ならうちでも用意できるし、読書や作業をするなら自室で事足りるではないか。
喫茶店と何も変わらないじゃん、うち
外に出る労力と注文する手間を省いて完全個室のWi-Fi付き。おまけにゲームもベッドもあるし泊まれちゃう。
え、完全上位互換じゃん?
早速何か作って飲もうかしら……とここで脳内に電流走る。
エスプレッソマシン、コーヒー豆、オシャレな椅子、オシャレな食器。
カフェの要素を全て…いやそれ以上に満たしているかと思われたが。
ひとつ大切なものが欠けている、圧倒的に大切なものが!
◇
まずこれが、
【ホットティー(レモン)】
【アイスティー(ポールプリンセスのマドラー)】
【エスプレッソ】
【アイスカフェラテ】
そんで
【カフェラテ】
…に必要であり、我が家に欠けている大切なものこそ……
「ラテアート」だ!
コト…
えー、にこにこ笑顔マークちゃんです
だめだ!ラテアート練習しないと……カフェとは言えない!!
うおおおおお
おおおおおお
おおおおおお
おおおおおお
おおおおおおお
おおおおおおお
【失敗】
まだまだ!!!
うおおおおおおお
【失敗】
うおおおおお
おおおおおおお…
【失敗】
……
◇
全身に疲労を感じ、ベッドに倒れ込む。
何度やってもうまくいかない。コーヒー豆も切らしてしまった。大量のコーヒー豆のカスをゴミ箱に捨てる。
これらの「カス」って消臭・脱臭効果凄いらしい。リサイクルとかできないのかな。そんなことよりカフェインの過剰摂取で軽い眩暈がする。
しかもみてくれよ、シンクにあるこの洗い物の量
これでもまだ全部洗えてないの、ホント嫌になるぜ
まだ濡れててタオルで拭くと繊維が付いちゃいそうなので足下に電気ストーブを置いて疑似的に乾燥機状態にしてある。
残りは後だ、とりあえず何か食べよう……
はぁ、これじゃ一流のバリスタまで程遠いな…
いったん落ち着くためにコーヒーでも飲もうかね。
あっ
そうだ
豆がないんだった
クソ…手が震えてきやがった
もう俺はすっかりカフェイン中毒者だよ
フラフラとした足取りで立ち上がる。何か食べて体力を回復させるのが先決だ。
冷凍食品が何かあったかな
おれはしゃがみこんで冷凍庫を開ける。冷凍餃子、チャーハン、パスタ、焼き鳥…
「ふむ……」
しばらくしゃがみ姿勢のまま悩んだ挙句、おれは洗い物が少なそうな焼き鳥を手にしてゆっくりと立ち上がる。
「うっ」
突然、視界がクラリと揺れたかと思うと平衡感覚が一気に失われる。身体が大きくグラつき、気づけば手にしていた焼き鳥が宙を舞っていた。
カフェインの過剰摂取による眩暈と、ひきこもりによる体力低下によって重度の立ち眩みが引き起こされたのだ。
俺は慌てて消えた焼き鳥の行方を追うように空中を見上げる。
まだ視界のぼやけは回復しない。その瞬間、
俺の手を離れた焼き鳥が重力に従い、真っ逆さまに落下しておれの左目を貫いた。
左目を襲う激痛に悶える俺はパニックになりそのまま後ろ向きに転倒する。
しかし運悪く床に置いていた電気ストーブに後頭部を強かに打ちつける。
ドシンと大きな音を立て強い揺れが部屋全体に響き、重ねていた食器が音を立てる。その衝撃でシンクの端にあったマドラーが跳ねあがった。
電気ストーブに打ち付けた後頭部からドクドクと生温かいものがあふれ出す。
天井を見上げ薄れゆく意識の中、おれは自分の右目めがけて真っ直ぐ落ちてくるポールプリンセスを見た。
◇
「死体の腐敗が始まってる…死後何か月だ?」
「警部、今回の密室怪死事件どう思います?」
「犯人がいるとすりゃ恐ろしく残忍な手口だってのは見てわかるな」
「ええ。認められる外傷は両目と後頭部。その後頭部の外傷による多量な出血が死因のようですが…一撃で仕留めず、いたぶるように両目を襲撃している。しかも凶器は焼き鳥と、アニメキャラ…のマドラー?」
「とんだトチ狂ったホシだな。それはそうと、こんだけ深く後頭部を打ち付けたってことはそれなりに暴れたってことだろ。隣人は誰も音を聞いちゃいないのか」
「ええ…なんでもこの男は引きこもりがちの様で、事件発生時は平日だった可能性が高いとのことです。平日たまたま休みだった可能性もありますが…まあこのオタク部屋を見る限り…」
「なるほど平日で隣人たちはみんな出勤してたのか。それより見てみろ、シンクに大量の食器や洗い物が残ってる。やはり誰か来ていたな。他殺の線で捜査を始めるぞ」
「ですが警部。発見時、部屋には鍵がかかっていて…いわゆる“密室状態”だったんですよ。指紋も被害者のもの以外出ていません」
「そうだな。しかし今回死体発見を遅らせる“明らかな細工”が施されている」
「“発見を遅らせる”……?たしかに…これだけの血を流した死体が、こんなになるまで放置されていてなぜ発見されなかったのでしょう」
「ゴミ箱を見てみろ」
「これは…大量の……“コーヒー豆のカス”?」
「そうだ。コーヒー豆のカスは強い脱臭効果を持つ。厄介なホシだ、相当ユニークで頭が切れやがる」
「指紋も残さず鍵のかかった部屋から、煙のように消えてしまった…こんな完全犯罪が、我々に解けるのでしょうか…」
………。
まずい、完全犯罪が現実に起きてしまう。
ひきこもっているとこんなことになりかねない。いますぐ外に出て体力をつけなければ!
今こそこの密室を破るとき!
歩くぞ~~~~~~~~~~
そうだな、まずは…..
この大量のコーヒーカスをもうちょい遠くのゴミステーションまで…w
◇
今日も脳内で様々な思考実験を繰り返しながら、ひとりで生きてゆく為の最低限度の家事をして、廃人にならない程度の生活習慣を心がけようと思う。
あと、ラテアートもチョコソース使えば楽勝だし。できないことはない。